学生・研究者インタビュー|【空間経済学 】小林健太郎教授(経済学部・データサイエンス学環)
ゆか
経済学部 小林教授にインタビュー【学生リポーター:ゆか】
今回は、経済学部とデータサイエンス学環を兼務する小林健太郎先生に、インタビューをしました。
空間経済学とは?
ゆか:では、まずは先生の研究を1分間でご説明いただけますか?
小林先生:僕がやっている研究は『空間経済学』というような、空間的な観点から、都市がどのように発展し、人々がどこに住むかといった問題を考える学問です。特に大都市の通勤や共働き家庭の住居選択に着目し、都市内での住み分けがどう生まれるのかを分析しています。
この分野の研究の歴史は、1826年にフォン・チューネンが書いた『孤立国』という理論書にまで遡るんです。彼は、都市周辺に異なる農作物がバランスよく配置される理由を、輸送費と地代のトレードオフの概念で説明しました。その後、これを都市内部にも当てはめて、住宅地や商業地、工業地にどう分かれるかという理論が発展しました。
経済の理論では、みんなが全く同じものを売っていて、どこで買っても同じという『完全競争』という考え方がよく使われます。しかし、それだけだと、実際には都市がどうやって成り立つのかをうまく説明できませんでした。そこで、『駅の近くの家は便利だから人気』とか、『郊外の家は静かで広い』のように、場所ごとに違いがある,つまり「空間的な距離」や「財・サービスの多様性」を含めて考えることで、この問題を解決できたんです。
最近はコンピュータ技術の発展によって複雑なシミュレーションもできるようになり、ここ20年ぐらいで空間経済学はすごく発展してきました。こうした都市の形成をシミュレーションで分析し、少子化や働き方の影響も検討しているというのが僕の研究になります。 2分ぐらい喋っちゃいました(笑)
ゆか:経済学と聞くと初めはお金の流れを想像してしまいますが、そうではないのですね。
具体的に、どんな問題に取り組んでいるのですか?
小林先生:特に注目しているのは、「都市への人口集中」と「少子化」の問題ですね。現在、東京のような大都市に人口が集中しすぎて、地方が過疎化する一方で、東京の住宅価格が上昇し、生活コストが増えています。都市の中では、通勤や居住環境の選択も、世帯の収入や働き方の違いによって異なる「すみ分け」が起こっているんですよ。
こうした都市の人口の動きや選択は、経済的要因だけでなく、社会的な要因や政策によっても影響を受けます。例えば、共働き世帯が増えることで、通勤時間や育児のしやすさが住宅選びに大きな影響を与えるようになっています。これを空間経済学の視点から分析することで、より良い都市計画や政策を提案できる可能性があるのです。
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データサイエンスと経済学
ゆか:先生はデータサイエンスと経済学の両方に関わっていらっしゃいますが、それぞれのアプローチにはどんな違いがあるのでしょうか?
小林先生:これ、なかなかハードな質問ですね(笑)
データサイエンスと経済学は、同じデータを扱っている面がありますが、そのアプローチにはいくつか違いがあります。
まず、経済学では、現実の社会や経済現象を観察して、「何が起こっているのか?」という疑問からスタートします。そして、その疑問に対して仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを理論的に検証します。経済学者は、理論や数式を使って、都市のような複雑なシステムの中でどのようなパターンが生まれるのかを予測し、それを実際のデータで検証していくのです。
一方で、データサイエンスはもう少し幅広い領域です。データの収集や整理、分析を行い、その結果を使って課題を解決したり、予測を立てたりします。例えば、経済学の理論を検証するためにデータサイエンスの技術を使ってシミュレーションを行ったり、機械学習の技術を使ってパターンを見つけたりするなど、分析の過程が非常に重要です。
言い換えれば、経済学のデータの使い方は、データサイエンスの一部の技術と重なりますが、その背景にある目的や視点が異なります。
データサイエンスの技術が発展することで、経済学で扱える問題の幅も広がっています。昔は手計算だとなかなか検証できなかった問題に対しても、シミュレーションや統計的な手法を使って、より深く理解できるようになっています。経済学の理論をデータサイエンスの力で実証したり、逆にデータサイエンスの発見を経済学の理論で説明したり。ですから、経済学とデータサイエンスの間に明確な区別があるというより、相互に技術を使い合って、分業しているというイメージを持っています。
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先生の高校時代は?
ゆか:先生の中高生時代の様子についてもお聞きしたいです。どんなことに熱中していましたか?
小林先生:高校時代、弓道部に所属していて、かなり部活に打ち込んでいましたね。弓を引くために筋トレをしたり、技術を磨いたりしていました。部活動以外に何も興味がなかった、あとごはんを食べる以外に何も興味がなかったといっても過言じゃないかもしれないですね(笑)。
ゆか:経済学には、いつから興味を持ち始めたのですか?
小林先生:高校の時の社会科で政治経済が割と面白くて。だから大学で受験したのは経済学部ばっかりですね。ただ、当時は今のように具体的な研究内容まで見据えていたわけではなく、「とりあえず興味のあることを勉強してみよう」という感じでしたね。
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研究者を目指すきっかけ
ゆか:大学に進学されてから、研究者を目指すきっかけになった出来事はありましたか?
小林先生:大学時代にいい先生と出会ったことが、研究者を目指す大きなきっかけでした。私は大学2年生のとき、ある経済学の授業で、通年で教科書1冊を徹底的に学ぶ機会があったんです。前期と後期にそれぞれ試験があって、試験範囲は教科書の半分ずつ。しかも試験は論述式で、ただ暗記して答えられたら良いというものではなく、深い理解が求められました。
その先生がとても厳しかったのですが、経済学のロジックを徹底的に教えてくれて、私も必死で勉強しました。わからないことがあれば、直接先生に質問に行くような感じで、毎回挑戦でしたね。その結果、経済学の基本的な考え方をしっかりと身につけることができました。
大学では、授業をただ受けて単位を取るだけでなく、もっと積極的に自分から学びに行く姿勢が重要だと思います。
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おすすめの本:中高生への推薦書籍は?
ゆか:
中高生に向けて、先生がおすすめする本があれば教えてください。
小林先生:
中高生向けとなると、少し難しい選択になりますが、まず紹介したいのはラッセルの『幸福論』です。特に、前半部分にある「不幸の原因」という章は、中高生でも分かりやすく、考えさせられる内容が多いです。この本では、幸福や不幸についての深い洞察が語られていて、特にSNS時代の現代にも通じる内容が書かれています。例えば、他人を非難することで幸福を得ようとすると、逆に自分が不幸になるといった話など、現代の状況を予言しているような内容もありますね。
もう一つは増田四郎の『大学でいかに学ぶか』です。この本は、大学での学びや学生生活の意義について書かれていて、高校生が大学進学を前に読んでおくと、大学での勉強の意味や心構えが見えてくると思います。少し古い本ですが、今でも十分通じる内容だと思います。
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百年後の様子は?
ゆか:
百年後、さらにはその先、私たちの社会や国の様子も大きく変わると思いますが、先生は百年後の未来がどうなっていると思いますか?
小林先生:
百年後がどうなっているか…実際考えてみたのですが、そんなに悪いことにはなっていないのではないかと思います。もちろん、個々人が抱える不安はさまざまなので一概には言えませんが、歴史的に見ても、社会というのは元の状態に戻ろうとする力が働くものです。
都市化が進む過程では苦労もありますが、百年というスパンで見れば、人口が減少していることもあって、各都市がもう少し安定する時期がくるのではないかと思います。技術や考え方の進歩が加われば、今よりも少し住みやすくなるかもしれません。選択次第で未来は大きく変わると思いますが、百年後に日本が滅んでいるというようなことはないでしょう。むしろ、少しずつ改善していく方向に向かっていると期待しています。もっと具体的に言うと、今のような「一極集中」は少し緩和されるのではないでしょうか。
例えば今、東京の資産価値をどう維持するかという議論もありますが、もし東京の土地が誰でも自由に買えるようになれば、世界中の人がそこに目をつけるかもしれません。そうなると、東京のような都市に住みたいと思う人が増えて、ますます人口が集中するかもしれない。しかし、逆に地方都市のコストパフォーマンスの良さに気づく人たちが増え、東京もまた変わっていくでしょう。
ゆか:
未来の日本がどうなるかは、政策や経済状況次第ということですね。
小林先生:
まさにそうです。振れ幅が大きくなる可能性もありますが、社会はある程度極端な方向に進んでも、最終的には元のところに戻ろうとする力が働くんですよね。今は人口が東京に集中しすぎていますが、百年後にはもう少しバランスが取れた都市構造が見えてくるのではないかと思います。
東京23区だけで約1000万人が住んでいますが、これはさすがに多すぎると思います。高層ビルを建てることで解決しようとする動きもありますが、震災リスクや液状化などの問題もありますよね。特に東日本大震災では、液状化でマンホールが突き出るということが起きました。そうしたリスクも考えると、技術の進歩だけで解決できる問題ではないかもしれません。まだ解決すべき課題はたくさんあります。情報技術の進歩やシミュレーション技術が、そうした未来の課題解決に役立つことを期待しています。
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中高生へのメッセージ:「興味を追求することが大事」
ゆか:最後に、中高生に向けてメッセージをいただけますか?
小林先生:興味を持っていることに一生懸命取り組んでみるといいと思います。うまくいかないことも多いですが、それでも熱意を持って挑戦することが大切です。
よく「何がわからないのかわからない」ということがありますよね。それは決して悪いことではなく、わからない部分を他の人に説明できるようになるまで粘り強く取り組むことが大事です。自分の言葉で説明できるようになると、その段階で「何がわからないのか」が明確になり、それが理解への一歩になります。
あと例えば、学校の勉強を進めていく中で「こんな勉強、何の役に立つんだろう?」と思うことがあるかもしれませんが、すぐに役に立つかどうかはわからなくても、その勉強を通じて身につく考え方やスキルが、後々大事になってくることが多いです。
勉強に限らず、物事に対して「想像する」力も大切です。学問の面白さは、その知識や技術をどう応用できるかを想像することで広がっていくんですよ。例えば、今学んでいる数学や物理、歴史の知識が、未来のどんな場面で役立つのかを想像してみると、勉強そのものがより意味を持つように感じられるかもしれません。なので、まずは今できることに全力で取り組むことが大切です。
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今回は経済学部とデータサイエンス学環を兼務されている小林先生にインタビューをしました。データサイエンスと経済学だけでなく、私が所属している情報学部との接点も見えてきて、大学では学部が異なっていても、どこかで必ず影響しあっているということが実感できました。
小林先生、さまざまなテーマについてお話しいただき、ありがとうございました。
ひとこと
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