データサイエンスで大気汚染の解決に挑む
櫻井 達也
データサイエンス学環
理工学部 総合理工学科
教授 / 博士(理学)
大気科学研究室
大気汚染は、いまや地球規模で対策すべき危急の課題となっている。民間企業で環境コンサルタントとして活躍した櫻井達也教授は、その経験を生かしながら、データサイエンスを駆使して大気汚染現象のメカニズムを解明し、その理解や防止に役立てようとしている。
コンピュータシミュレーションで
大気汚染現象を解析・予測
光化学スモッグやPM2.5 などの大気汚染が、世界的な問題になっている。その原因は、自動車や工場から排出されるガスなど、人間の生活や生産活動によるものだ。大気汚染は、国境を越えて人間の生活や健康を脅かすだけでなく、自然の生態系にもさまざまな影響を及ぼすため、地球規模で一刻も早い対策が求められている。それに貢献するため、櫻井達也教授はデータサイエンスを用いて大気汚染現象を解析・予測する研究に取り組んでいる。
「大気汚染は複合的な要因で発生するため、発生源を特定するのは簡単ではありません。それに加えて、例えば自動車の排気ガスを半分に減らしたら、どのくらい大気汚染が改善されるか、実際に試すことはできません。そこで私たちは、コンピュータシミュレーションによって、仮想空間上でさまざまな発生源が大気汚染にどの程度影響を及ぼしているのかを推測したり、汚染物質が高濃度化していくメカニズムを解析し、大気汚染の解決策を見出したりしようとしています」。その一つとして、夏季に首都圏で高濃度の光化学オキシダント(Ox)が発生した現象に着目。観測データをもとに数値シミュレーションを構築し、解析を行った。
精度の高いシミュレーションモデルをつくるためには、どのような情報をインプットするかが重要になる。櫻井教授らは、気象庁の気象観測データの他、船舶からの排出量など、想定されるさまざまな発生源のデータを組み込み、大気汚染現象を表す三次元シミュレーションモデルを構築した。「三次元モデルから、約2km上空にまで高濃度のOxが出現していることが見て取れました。また風によってOxがどのように頒布していくかも予測することができました[図1]。国内には1000地点以上の気象・大気汚染の観測ポイントがありますが、いずれも地表付近の状況しか観測できません。本研究によって、観測できない高度の大気の汚染状況を推測することが可能になりました」

さらに櫻井教授は、現実の観測データと比較することで、数値シミュレーションにどの程度再現性があるのかも検証している。「天気予報と同じで、精度が悪いとモデルとしての信頼性が揺らいでしまいます。そのため実データと照らし合わせて違いを分析し、シミュレーションの改善につなげています」と言う。
比較対象としては通常、国などの観測データを用いるが、時には気球やドローンを使って独自に観測も実施する。本研究では、観測気球を成層圏まで飛ばし、約10m間隔でOxの濃度を観測し、数値シミュレーションとの比較分析を行った[図2]。

大規模な観測データから
機械学習で大気汚染を予測する
また近年、AIやIoTの進化によって大量のデータの解析が可能になっている。櫻井教授も、機械学習を用いて過去の観測データから大気汚染を短期的に予測する研究に着手している。株式会社カズテクニカの協力を得て、大規模データ解析ソフトのTIBCO Spotfire を活用した共同研究をスタートさせた。
ソフトを用いて過去の観測データを機械学習させ、Ox濃度の時間変動予測モデルを作成した。その結果、高い精度で1 ~ 3時間後の大気汚染状況の予測に成功した[図3]。「現在、より高精度な大気汚染予測システムを開発しようと、研究室の学生と一緒に取り組んでいます」

海を航行する船の排ガスが
大気汚染の原因に
「大気汚染には、地上だけでなく海を航行する船舶が排出するガスも甚大な影響を及ぼしています」と指摘する櫻井教授。例年の国の調査で、国内で瀬戸内地方だけ際立って環境基準の達成率が低く、ひどい大気汚染が続いていることが明らかになっている。原因究明に乗り出した櫻井教授らが行き着いたのが、瀬戸内工業地帯と船舶だった。「原油は、LPガスやガソリン、軽油などに使われた後、最後に重油が残り、大型船舶の燃料として使われています。重油はコストが安い反面、燃焼の際に生じる硫黄酸化物(SOx)などが環境汚染の原因になることが問題となってきました」
2018年、汚染防止のための国際条約が改正され、2020年1 月から船舶燃料に関する規制が強化され、より厳しい排気ガス規制が課せられることとなった。そこで櫻井教授らは、環境省のプロジェクトの採択を得て、条約施行の前後で大気汚染濃度を比較し、規制の効果を確かめる研究に取り組んだ。
瀬戸内海の大気汚染状況を知るために、観測とコンピュータシミュレーションの両方で調査を実施した。瀬戸内海とその周辺に観測装置を設置。2019年と2020年に大気中のSOxやPM2.5の濃度を観測するとともに、船からの排ガス量とその影響を推計した[図4]。「分析の結果、条約施行を挟んで、大気質の大幅な改善効果が確認されました」
データサイエンス分野では目覚ましい勢いで技術革新が進んでいる。櫻井教授は最新のテクノロジーや情報を更新しながら、地球環境保全に寄与する研究を続けていく。

櫻井 達也
データサイエンス学環
理工学部 総合理工学科
教授 / 博士(理学)
大気科学研究室

専門分野
環境動態解析、環境影響評価、環境技術・環境負荷低減、環境モデリング
キーワード
大気環境、越境大気汚染、大気質シミュレーション、環境アセスメント
研究室HP
大気科学研究室ホームページ教員情報
明星大学教員情報 櫻井 達也神奈川県出身。趣味はガーデニング、スポーツクラブ、サウナ、マッサージ。座右の銘は「今この人生を、 もう一度そのまま繰り返しても良いという生き方をしてみよ(ニーチェ)」。今興味があるのは株式投資。経済学にも挑戦してみたい。
2024年7月掲載
*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。