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レシプロカル構造を基本から。松尾先生に教えていただく「支え合う建築」の広がり

おせっかいな研究広報さん

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研究者インタビュー【取材:研究広報さん】

明星大学 建築学部 建築学科
松尾智恵 准教授

 建築は専門ではありませんが、新しい言葉に出会うとつい気になってしまいます!こんにちは、おせっかいな研究広報さんです!

 この前、竹アーチを取材してからというもの、「相互に支え合う構造=レシプロカル」は、LiTではおなじみのキーワードになったような気がするのは私だけ?
とはいえ、ちょっとまだよくわからない、とか、初めて聞くよという方も多いはず… 。

 そこで今回は、構造デザイン・空間構造の専門家、明星大学建築学部建築学科の松尾 智恵准教授(構造デザイン研究室)に、基本からあらためて整理していただきました!
 今回のLiTレポートは、松尾先生から寄稿いただいた原稿をもとに、レシプロカル構造がどう成り立つのか、その考え方がドームへどう広がるのか、さらに学生たちが模型と実験で確かめたポイントまでご紹介!きっと読み終えた後には、レシプロカル構造の面白さが伝わっていると思います!

レシプロカル構造ってどんな仕組み?

(寄稿:松尾智恵 准教授/明星大学 建築学部 建築学科 構造デザイン研究室)

 レシプロカル・フレーム構造(RF)とは、お互いを支え合うように配置された部材で構成される、相互依存型の架構です。中央に閉じた図形(四角形、三角形、六角形などの多角形)ができるよう、直線状の部材を順番に積み重ねて得られるユニット(図1)が基本構成とされます。
 

 このユニット単体でも構造体が形成できますが、ユニットを一定の幾何学ルールに則って、平面上あるいは曲面上にすき間なく敷きつめて構造体を形成することも可能です。

レシプロカル・フレームの基本ユニット。短い直線材を順番に重ね、中央で閉じた多角形をつくる「支え合い」の構造が見える。

木材と相性がよい理由

 木材は、木の成長や運搬などの関係上、部材の長さに制約があります。その点、レシプロカル構造は、継手を設けずに短い部材で、部材の長さを超えるスパン(支点間距離)を架けることができます。

 このため、近年の木材利用の促進に伴い、中規模の木造建築への適用事例が増えています。部材を積み重ねず、金物を用いて同一平面内に部材を納める事例なども見られます。

勾配に応じて、変わる力の流れ方

 重ねられた部材の角度が緩い場合は、梁と同様に曲げ系で力が伝達されるため、スラスト(外に広がろうとする力)を気にする必要がありません。一方、部材の勾配が立ち上がってくると軸力が生じるため、部材群の脚元外周にテンションリングを設けるなどの配慮が必要です。

歴史的背景

 このような構造システムが「レシプロカル・フレーム」と呼ばれるようになったのは、20世紀に入ってからですが、類似する原理を用いた架構は、はるか昔から使われており、原初的な住居であるインディアンのティピーやナバホ族のホーガン住居などに見られます(※1)。
 レオナルド・ダ・ヴィンチが考案したアーチ橋は、特に有名な事例として、よく知られています。

※注1…J.C.Chilton, B.S.Choo and O.Popovic: Reciprocal frames past, present and future. In Proceedings of the International Conference in Lightweight Structures in Civil Engineering, Warsaw, Poland, September 1995, pp.26-29.

テンセグリティと部材配置が似ている?

 また、レシプロカル・フレームとテンセグリティの間にも類似する点があるように思います。
テンセグリティとは、張力材と圧縮材を組み合わせてできる構造です。張力材の有無によって力の流れ方の原理は全く異なるものの、部材のレイアウトはとても良く似ています。

 バックミンスター・フラーは、1950年前後にテンセグリティをジオデシックドームに適用しました(※2)。
 下図に、その部材構成を示しますが、連続的な張力材の合間に浮かぶ非連続的な圧縮材の部材配置はレシプロカル・フレームの幾何学パターンと良く似ていると思いませんか?


テンセグリティを適用したジオデシックドーム。図は、公開特許(US3063521A)を参考に筆者が作成。


※注2…R.バックミンスター・フラー、ロバート.W.マークス、(訳者:木島安史、梅澤忠雄):バックミンスター・フラーのダイマキシオンの世界、鹿島出版会、2008.

ジオデシックドームへRFを適用する研究

 明星大学建築学部建築学科、構造デザイン・空間構造研究室でも、レシプロカル・フレームをテーマとした研究があります。
 
 「ジオデシックドームへのレシプロカルフレームの適用と最適分割パターンの創生」と題し、「2025年度日本建築学会大会(九州)」で、卒業研究に従事した国本 浩昂さん(学会発表時は社会人)が研究発表を行いました。

 私の研究室では、卒業論文の研究テーマは学生の主体性を尊重して決めることが多いです。
 学生がこの内容で研究することになった背景には、学部3年生後期の建築デザインスタジオの授業で、ストローを用いて直径約80cmのジオデシックドームを学生自身が組み立てた経験が少なからず影響しているものと思われます。

 ストローをつなげる接合部は、3Dモデルをつくり、ストローがピッタリ納まる太さでプリントアウトされました。

学生たちがストローで制作した直径80cmのジオデシックドーム模型。3Dプリントした接合部を使い、構造の成り立ちを体験的に学んだ。

現在もゼミ室に飾っている

使用したストロー

3Dプリントした接合部

なぜジオデシックドームに応用するのか?

 ジオデシックドームは、構造的に強く、剛性が高い(変形が小さい)ドームを、標準化された(同じサイズに統一された)部材と接合部でつくることができるという有利な点があります。
 一方で、写真から見て分かるように、ひとつの接合部に5本だったり、6本だったりの部材が集中してしまう。

 そこで、レシプロカル・フレームをジオデシックドームに適用すれば、構造的な合理性やつくりやすさをある程度維持しながら、接合部への部材集中を避けることができるのではないか、というのがこの構造システムのメリットのひとつです。
 木材利用が促進される社会背景において、木造に適用しやすい方法といえます。

分割パターンから“部材位置”を一義的に導く

 この研究論文の独自性は、レシプロカル・フレームの部材配置をジオデシックドームの分割パターンから一義的に求めることができる方法を提案している点です。

 ジオデシックドームは、三角形のグリッドから構成されるため、その三角形を利用して比率(論文では「相似比」と呼んでいる)を、任意に変えることのできる小さい相似形の三角形を中心に配置し、内外の二つの三角形の中点を通る線分を延長して、交差する点でとめることで、レシプロカル・フレームの部材を配置する位置が決まります。

ジオデシックドームの部材配置をレシプロカル・フレームへ変換する手法。相似比(∽)をもとに三角形の辺の中点を結び、交点を用いて部材位置が決まる。

 相似比(図中、∽)というパラメータ化により、この値を変えることで同じ球面に対して多様な部材レイアウトが生まれます。そして、この方法により構造最適化を行うことも可能となります(詳細は上記論文をご参照ください)。

相似比(∽)を変化させて得られる多様な部材レイアウト。ひとつの球面でも、設計次第で全く異なる構造美が生まれる。

実験で確かめた“ねばり強さ”と“冗長性”

 また学生たちといっしょに、一つのレシプロカルユニットを取り上げて、万能試験機を用いた鉛直載荷試験を行いました。
 この実験を通して、レシプロカルユニットの「靭性(ねばり強さ)」、そして「冗長性(ある部分が壊れても、力が再配分されてまだ力に耐えることができること)」が高いことを確認することができました。

万能試験機を用いたレシプロカル・ユニットの載荷実験。ねばり強さ(靭性)や、力が再配分される“冗長性”が確認された。

 この研究は後輩にバトンタッチされ、2025年度の卒業研究では全体フレームの縮尺模型を制作し、鉛直載荷試験を行いました。
 とても面白い構造システムなので、今後も後輩へと引き継がれていくのではないか、と思います。

全体フレーム模型の載荷試験。縮尺モデルを用い、レシプロカル構造の実挙動をさらに深く検証した。

おわりに―おせっかいな研究広報さん

 最初に原稿を拝見したときは、正直、少し難しい世界だなと感じました。けれど、一つひとつ読み解いていくうちに「支え合う構造」という考え方のシンプルさと奥深さに、思わずはっとさせられました。

 特に印象に残ったのは、短い部材どうしが支え合いながら形をつくっていく、その構造の美しさ。シンプルなのに美しい。建築という分野の奥行きをあらためて感じました。
 構造計算や材料の力学といった理論的な側面はもちろんありますが、「形の美しさ」や「感覚的な魅力」もまた建築の大切な一面なのだと実感。

 これから進路を考える高校生の皆さんにとっても、こうした視点が建築への新しい入口になるのかもしれませんね。

 レシプロカルという「支え合う構造」は、古くからある建築の知恵でありながら、木材利用の広がりや設計技術の進展と結びつき、いま改めて注目されている構造でもあります。
 今回ご紹介した研究や学生たちの実験から、その可能性の広がりや魅力が少しでも伝わっていたらうれしいです。松尾准教授、貴重なお話をありがとうございました!

 LiT レポートでは、これからも研究室での取り組みや学生たちの挑戦を、おせっかいな研究広報さんが分かりやすくお伝えしていきます!

松尾智恵 准教授の研究紹介ページ「女性構造技術者が考える「かわいい」とは?」

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年月掲載

*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。