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放置竹林をめぐる建築的挑戦 ─ 里山・農・住環境をつなぐ、栃内研究室のプロジェクト ─

おせっかいな研究広報さん

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研究者インタビュー【取材:研究広報さん】

明星大学 建築学部 建築学科
栃内 秋彦 准教授

ーこんにちは!おせっかいな研究広報さんです!

突然ですが、「竹」って聞いて、何を思い浮かべますか?
七夕? 竹林? それとも…流しそうめん?

建築学部 建築学科の栃内秋彦 准教授の住居・建築環境デザイン研究室では、その“竹”に魅せられて、学生たちといろいろな実践を重ねてきました。

竹林に入って、自分たちで竹を切って、運んで、割って、組んで。
家具になったり、什器になったり、子どもたちの遊び場になったり…。

そんな日々の積み重ねが、竹を組み合わせるように重なって生まれたのが――
「全長18メートルの竹のアーチ」でした。――長さだけで言うと、大型バス1台半くらいのスケール。

放置竹林という地域の課題と向き合いながら、
里山と、暮らしと、建築と、学生の学びが、
一本の竹を通して、少しずつつながっていく。

今回は、そんな取り組みを続けている栃内准教授にお話を伺いながら、
竹という素材の魅力と、学生たちの実践の現場をのぞいていきます!

竹」って、建築から見ると何がすごい

─正直に言うと、「竹=建材」というイメージはあまりありませんでした。
細くて軽いという印象が強いですが、建築の視点で見ると、どんなところが面白い素材なんでしょうか?

栃内准教授:そうですね。竹は断面が中空で、軽くて、強くて、しなやかという特徴があります。
古くから丸竹や割竹として建築に使われてきましたし、直線材にも曲線材にもなります。近年では、薄く加工して貼り合わせた竹の集成材も一般化してきていますし、構造材利用や竹を鉄筋の代わりに活用する竹筋コンクリートの研究なども進んでいます。


 もう一つ重要なのが、材料としての調達のしやすさです。断面が比較的細く中空なので、高さ10メートルを超える竹でも、小型のノコギリ一本で一人でも伐採できます。学生が自分の身体を使って素材と向き合える、という点でも特徴的だと思っています。


 さらに、竹は成長が非常に早く、3〜5年で建材化できます。CO₂吸収量も多く、伐採しても地下茎が生きているため吸収が続きます。吸収した炭素を竹材として建築に使うことで長期間ストックでき、短い周期で循環させられる資源でもあります。

─ふむふむ。竹って「軽くて強い」だけじゃなくて、「自分たちで切り出せる」んですね。学生が現場で扱える素材ってなんか魅力的ですね!

栃内准教授ええ。直線も曲線もつくれること、そして手作業で扱えること。この二つは、実践の場ではとても重要な要素になりますね。

「使って終わり」ではない、竹の扱い方

─先生がこの活動を始めたきっかけは、何だったんでしょうか? いきなり竹林に入ったんですか?

栃内准教授:いえいえ、実は、私の設計事務所(一級建築士事務所TAKiBI)の湘南オフィスに菜園付きの共同住宅があるんです。そこに自生していた竹が菜園を侵食したり倒れたりして困っていて。

それを無煙炭化器で竹炭にして、土に撒き、農と住環境をつなげる実験を始めたのが原点ですね。そこから里山のネットワークが広がり、放置竹林の問題に関わるようになりました 。

─なるほど。先生自身の「困りごと」から始まったんですね。なんだか、竹をただ「材料として使う」だけじゃなく、切って、使って、その先まで含めて関わっている感じ。こういう関わり方って、建築の中ではどう考えられているのでしょうか?

栃内准教授:私たちは、こうした考え方を「資源循環」という言葉で説明しています。
現代の建築は一般的に、材料を一度使うと長期間そのまま固定され、撤去の段階で大量の廃材が生まれる、一方向的な使い方が続いてきました。
 それに対して竹は伐採しても短期間で生え変わりますし、管理と利用を結びつけることで、地域の中で循環をつくることができます。
 「放置竹林」という環境課題を、建築側が需要として受け止めることで、地域単位の循環と環境の再生が成立していく。そのような可能性を、実践を通して確かめていきたいと考えています。

ーーー
栃内准教授が語る「資源循環」とは、竹林の整備と建築利用を別々の工程として扱わず、地域の中で連続した営みとして捉える考え方です。
この視点が、後の学生たちの実践へとつながっていったそうです。
ーーー

大学での実践へ ―学生と竹林に入る

─ここまでのお話を聞いていると、今の取り組みは、いきなり「大学のプロジェクト」として始まったというよりも、先生ご自身の実践や里山との関わりが、少しずつ学生に広がっていった印象がありますね。実際に、大学として本格的に動き始めたのは、いつ頃からでしょうか?

栃内准教授:そうですね。大学としての最初の活動は、2025年2月に町田市の小野路竹倶楽部の皆さんにご協力いただいて、学生とともに竹林整備に参加したことでした。このこともきっかけとなり、栃内研究室4年生の田中さんが、生田緑地周辺で行われている竹材有効活用のワークショップに参加するようになり、竹の建築利用をテーマに卒業設計に取り組み始めました。

─整備に参加したことが、そのまま卒業設計につながったんですね。「体験して終わり」ではなくて、自分の建築テーマとして引き寄せていった流れがすごく印象的!

栃内准教授その後、小野路竹倶楽部や生田緑地共同事業体の皆さんのご協力のもとで、竹林整備と、そこで発生した竹材の有効活用に取り組んできました。

五感で楽しむ什器”の制作や空間づくり

─竹を使って、什器や家具を作ったり、竹を使ったワークショップまで広がったんですよね?

栃内准教授:はい。町田小野路の竹林で調達した竹材で制作した、農作物を育てるための可動什器は、2025年3月に開催された「杉並建築展2025」に出展しました。そこでは様々な年代の来場者に五感で楽しんでもらうことができました。

”視覚”では、その特徴的な造形を、
”聴覚”では、木琴のようにバチ(マレット)で叩くことで生じる音を、
”嗅覚”では、丸竹に開けた穴に設置した30個のポットのハーブや野菜の匂いを、
”味覚”では、ハーブや野菜の味を、
”触覚”では、可動ベンチの座り心地や竹材の手触りを、
といった具合です。

─へぇ〜!建築って「見るもの」という印象が強いですが、音が鳴ったり、匂いがあったり、触って座ったりできると、体験の幅が一気に広がりますね!

栃内准教授:そうですね。2025年8月には、イオンモール多摩平の森で開催された小学生向けワークショップ「たまもり科学探検隊」にも参加しました。生田緑地の整備で得た笹を使って、レシプロカル構造(部材同士が互いに支え合う構造形式)の囲いやアーチづくりに挑戦しました。

ーーー
家具や什器からアクセサリー、ワークショップといった比較的小さなスケールの実践を重ねる中で、
学生たちの関心は次第に「空間」そのものへと広がっていったそうです。
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生田緑地での全長18mの竹アーチ

─そして、やっぱり一番驚いたのが、生田緑地の能舞台に架けた全長18メートルの竹アーチ!
「え、そこまでやるんだ」って思いました。しかもこれ、学生の卒業設計も兼ねているんですよね?

栃内准教授:そうなんです。割竹と丸竹を使って、スパン18メートルのレシプロカル構造に挑戦しました。模型による構造実験から始めて、実物大の試作を重ねながら、結束方法や施工手順を検証していきました。

─建築学部の卒業設計というと、模型や図面が中心という印象ですが、18メートルの実物大というスケールは、明星大学建築学部としても初めての試みだと聞きました。

栃内准教授:実際、これほどのスケールを実物でつくる卒業制作は、学部としても初の取り組みです。生田緑地整備事務所の皆さんの全面的な協力や、明星大学建築学部・松尾智恵先生による構造力学的な知見、そして、建築サークルTIPSや学生有志の参加があって、半年間準備を進め、2025年12月20日に設営することができました。

─うわぁ、半年間かけて、模型で考えて、実物で試して、現場で組み上げる。「卒業設計」という言葉から想像する範囲を完全に超えていますね…。学生にとっても、忘れられない経験になったはず!

栃内准教授:そうですね。このプロジェクトは、生田緑地東口ゲート構造物で使用された竹材の再利用を模索する中で生まれ、田中さんの卒業設計として位置づけられています。素材調達から構造実験、施工までを一貫して経験する、非常に密度の高い実践になりました。

ーーー
生田緑地での竹アーチは、規模の大きさや挑戦性から注目を集める取り組みでしたが、栃内研究室の活動は、こうした特別なプロジェクトだけで成り立っているわけではありません。
竹林に入り、竹を切り出し、運び、割り、組み上げる。
その一つひとつの作業を、学生自身の手で積み重ねています。
そして竹林整備から制作、施工までを一貫して行う。そうしたプロセスが重要です。
ーーー

─学生の皆さんが、かなり深いところまで関わっていることが伝わってきました!実際、活動の中で学生はどんな学びを得ているのでしょうか?

栃内准教授:大学での設計課題や、実務における建築行為でも、製品化された材料や建材を使うことが一般的です。そうした中で、この活動では、里山に入り、自分たちの手で材料を調達し、加工し、施工まで行っています。

 身近な環境や暮らしを、少しずつ更新していく。その一連のプロセスを身体で経験することが、学生にとってとても重要な学びになっていると考えています。

─図面や模型の中だけで完結しない、ということですよね。材料に触る、というよりも、材料と最初から最後まで一緒に向き合っている感じがしました。

栃内准教授:そうなんです。地域の方々や学生と協働することで、大学近隣エリアへの地域貢献や、地域と学生のネットワークづくりにもつながっていきます。幅広い年代の方々に、広い意味での「建築」の可能性や面白さを伝えていけたら理想的だと思っています。

 学生にとっても、明星大学建築学部が掲げる「実践教育」という理念を、実際の行為として体験する機会になっています。

実践を続ける理由、これからの展開

─こうした活動を続けるうえで、先生ご自身が特に大切にされている考え方は何でしょうか。

栃内准教授:手を動かし、思考と身体の両方を使って創作に向き合うこと、そして前例のないことでも、まずはチャレンジしてみる姿勢です。また、学外の地域と関わる以上、外部の方に対する責任が生じるという意識を常に持つことがとても重要だと思っています。それらのことは、建築という行為の本質でもあると考えています。

─最後に、今後の展望についても教えてください。

栃内准教授:これまでの取り組みでの経験を活かし、活動エリアを広げること、そして制作物のスケールを拡張して、建築空間を創出することにも挑戦していきたいです。

 生田緑地桝形山展望台の能舞台でのレシプロカル構造の竹アーチは、建築空間化の最初の試みでした。まだ始まったばかりですが、これまで関わってきた地域の方々や学生と協働しながら、「里山・農・住環境をつなげるプロジェクト」として、この取り組みを発展させていきたいと考えています。
最後に、これまでご支援いただいた皆様に、この場を借りて、あらためて心よりお礼申し上げます。

ーこれからの活動も楽しみにしています!栃内准教授、どうもありがとうございました!

栃内准教授と学生たち

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*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。

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