大学教員に聞く!おすすめの数学映画【データサイエンス学環 中川智之准教授】
おせっかいな研究広報さん
研究者の趣味と日常を紹介
明星大学データサイエンス学環 中川智之 准教授

研究広報:今回は、明星大学 データサイエンス学環 中川智之 准教授に数学のおもしろさを聞きたいと思います。よろしくお願いします。
はじめに、中川准教授の研究について簡単に教えてもらえますか?
中川准教授:簡単にですか。簡単に言うと、「どのような解析手法を用いれば集めてきたデータから真実を明らかにできるか」というのを日夜研究しています。
研究広報:ふむふむ。LiT本編でも語られている中川准教授の「鍵を探す」例え話が好きなんですが、ここでも説明をお願いできますか?
中川准教授:はい。ベイズ推論の話ですね。
ベイズ推論は、まず事前分布という事前情報を考えて、データを得るたびに事後分布を更新して、現象を確率的に推論します。
研究広報さんのリクエストの「鍵を探す」の例で説明すると……
まず家の中で鍵を探すとします。あらかじめ玄関にある確率が高そうだと予想してから(事前の信念:事前分布)玄関を探しますよね?
研究広報:はい。きっと無自覚ですが、脳内にあるデータを引き出して玄関へ行きますね。
中川准教授:そこで玄関に行って、「ない!」というデータを得たらその新データをもとに新たに確率が高そうな場所(事後の信念:事後分布)を予想しますよね。
そうやってデータを得るたびに事後分布を更新して、実際に起きている現象を推論します。
研究広報:ふむふむ。それがベイズ推論ですね。とてもわかりやすいです。
先生は「シシャモはいつどこに、たくさんいるのか」という海洋データを解析する手法を構築されたんですよね。
海の中という観測日も観測地点もバラバラなデータをどうやって解析するのか、考えたこともなかったのですが……改めて考えると自然現象を正しく解析するのはかなり難しいなと思いました。
中川准教授:そうなんです。空間相関や時間相関があって、データ同士が影響し合うようなデータなので正しく扱うのは難しくなります。
ベイズ推定を使えば、複雑な構造を扱いつつ、解釈しやすいモデルを構築できるので、スピーディーに効率よく計算できて、複雑なデータを正しく扱えるようになります。
研究広報:中川准教授のご研究やデータサイエンスという分野は、既存の理論にアイデアを足していく学問というような印象を受けました。
詳しくはLiT本編を読んでもらいたいです!
本編「シシャモはいつ/どこにたくさんいるのか?(中川智之准教授)」はこちら
数学は遊びのようなもの
研究広報:研究を「楽しそう」と表現するのも知恵が足りないですが……
中川准教授のお話を聞いていると、アイデアが閃いた瞬間とそれを計算していく過程が、なんだかとても「楽しそう!」です。
中川准教授:楽しいですね。数学はおもしろい遊びだと思っています。だから答えにたどりついてしまうと「解けちゃった……」というような気持ちになります。
次はもっと難しいことにチャレンジしたいと思いながらずっとやっています。

研究広報:私は学校で習う数学の成績はイマイチだったんですが、「数学はきっと楽しい学問なのだろうな」という感覚はあります。
『大豆田とわ子と三人の元夫』という2021年に放送されたテレビドラマの話になりますが。
松たか子やオダギリジョーが演じる数学マニアたちが、前に座っているバスの乗客を観察しながら、謎の数式を書いているんですね。
バスの乗客の「①あくび」「②背中をかく動作」「③足をプラプラさせる動作」これらが何秒後にそろうのかを計算しているうちにバスを乗り過ごしてしまう、という描写があったのですが、とても楽しそうでした。
「数学ができるたち人は日常生活でこんな遊びができるのか!」と羨ましくなったのですが、中川准教授も、日常生活で数学(数字)で遊ぶようなことはありますか?
中川准教授:そうですね。小さい頃は、前を走る車のナンバープレートを足したり、 四則演算を使って10になるようにする遊びをしたりしてました。
最近でも現在の時刻を数学の演算や記号を使って10にするのは無意識によくやりますね。 (例えば、11:07とかなら、1+1 + 0! + 7 = 10のように)
研究広報:おもしろいですね!無意識に数字を目で追ってしまうかんじは少しわかります。
今日はぜひ「数学っておもしろい!」というような、おすすめ映画を教えてもらいたいのですが、なにかありますか?
中川准教授:そうですね。数学的な視点から観ておもしろかった映画は結構ありますね。
研究広報:今回は3作紹介してもらいます。
数学っておもしろい!おすすめの数学映画
『ビューティフル・マインド』(監督 ロン・ハワード)
実在する天才数学者ジョン・ナッシュの波乱万丈な人生と、彼が統合失調症と闘いながらも偉大な業績を成し遂げる姿を描いた感動的な映画。「ゲーム理論」が評価され、ノーベル経済学賞が授与されている。
『ラスベガスをぶっつぶせ』(監督 ロバート・ルケティック)
名門MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生たちが数学の才能を活かし、ブラックジャックのカードカウンティングでカジノから大金を稼ぐ頭脳派サスペンス。実話が基になっている。
『博士の愛した数式』(監督・脚本 小泉堯史)
日本アカデミー賞などを受賞。主演は寺尾聰。同タイトルの原作小説(著者 小川洋子)も本屋大賞を受賞している名作。記憶が80分しか持たない元数学者の、美しい数式が印象的な物語。
映画の「数学的」な見どころ
研究広報:まずは『ビューティフル・マインド』について数学的なポイントや見どころを教えてほしいです。
中川准教授:これは数学者でノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュ先生の半生を描いた映画です。
「ナッシュ均衡を考えた当時がどのような状況だったのか」など時代背景とともに考えさせられる映画です。
私の好きなシーンは、最後にノーベル賞を受賞したナッシュ先生に周りの研究者が万年筆を渡すところですね。印象的なシーンです。 (実際にはそのような習慣はないそうですが… )

中川准教授
愛用の万年筆
研究広報:『ラスベガスをぶっつぶせ』はどうでしょうか?
中川准教授:MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生がカードカウンティングという数学や確率を用いてラスベガスで大儲けする、実際にあった映画です。
カードカウンティングはこれまでの経験から何が残っているかを推測します。これは今の確率論や統計学に通じるところがあります。
研究広報:ラスベガスで実際にあった話とはおもしろそうですね。
最後の『博士の愛した数式』は、日本アカデミー賞などを受賞した映画ですし、原作の小説も本屋大賞を受賞していますね。
中川准教授:本作に出てくる数学者は「整数論」の専門家で、素数や完全数、友愛数など整数に関する性質が割と多く出てきます。
特にいろんな数字を数学の美しい数と関連させるところは非常に興味深いです。
研究広報:ふむふむ。「整数論」という言葉が出てきましたがどんなものでしょうか。
中川准教授:整数論は現在の暗号化やセキュリティ、乱数生成などで多く用いられています。
統計学でも実験計画法などでも応用されています。現代社会にはなくてはならないものになっていますね。
研究広報:ありがとうございます。大変重要な分野なのですね。
博士の愛した数式は私は小説で読んだのですが「数学って美しいんだ!」という発見がありました。余談ですが、「美しい数式」と言えば、『LiT』第3号の表紙は数式です。
突然の宣伝ですが、ぜひ手に取って読んでもらいたいです。
重なり合う信号での光通信を可能にする光直交符号(データサイエンス学環_離散数理研究室__篠原聡教授)

好きこそ物の上手なれ
研究広報:今回はデータサイエンス学環の中川准教授に、映画を切り口に数学のお話を聞かせてもらいました。
苦手意識のある学生もいると思いますが、「数学だ!」と難しく構えすぎることなく、数学から始まる可能性の広がりのようなものを、味わってもらいたいですね。
中川准教授:そうですね。数学を楽しんでもらえれば嬉しいですが、それよりもなんでもいいので「これが好き」と言えるものを見つけてみると良いと思っています。
「好きこそ物の上手なれ」という諺にあるように、好きであることは信じられないくらいの成長を見せてくれます。
研究広報:好きだと熱中できますものね。
中川准教授:私も多くの学生を見てきましたが、好きなものは頑張れます。ぜひ自分の「好き」を見つけてほしいです。
それがみなさんの将来に大きな財産になると思います。
研究広報:そのとおりですね!好きなものがわからないという人も世界を広げるうちにわかってくると思うのですが、映画がそのきっかけになることもありますよね。
ちなみに先生の座右の銘「どうせやるなら楽しくやる」は、わたしも時々仕事中などに思い出します。
中川准教授:それはそれは。
研究広報:研究者のマインドという感じがして印象的でした。見習いたいと思います。教えていただきありがとうございました。
ひとこと

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