老朽化マンションの建替えは
なぜ進まないのか
深井 祐紘
建築学部 建築学科
准教授/博士(工学)
建築計画研究室
旧耐震基準で建てられた建物の多くが築50年に迫る今、老朽化したマンションの建替えは、待ったなしの課題になっている。深井祐紘准教授は、住民合意などの「ソフト」面に着目し、実態調査を通じて建替えを進めるための解決策を探っている。
マンション建替えの壁は
ハードよりもソフトにある
日本における分譲マンションの総数は、713万戸(2024年末時点)を超え、いまや国民の1割超はマンションに住んでいると推計されている。新しい分譲マンションが次々と建てられている一方で、今、築年数が経過したマンションの老朽化と所有者の高齢化が課題になっている。
「歴史を振り返ると、日本では1950年代に、戦争による住宅不足の解消策の一つとして分譲マンションが誕生しました。高度経済成長期以降は、住宅不足解消の側面は薄れる一方、住まいの質が重視されるようになる中で、マンションのニーズは右肩上がりに増えていきました」と、深井祐紘准教授は背景を解説する。
とりわけ今、深刻な問題となっているのが、1981年の建築基準法の改正によって耐震基準が強化される以前に建てられた建物だ。「これらの建物は、2030年には築50年を超えることになり、早急に建替えなどの手を打たなければならない状況になっています」と言う。深井准教授によると、これまでに建て替えられたマンションの数は、累計323件、約2万6000戸。しかし旧耐震基準で建てられた建物の多くがまだ残っているという。
「マンションの建替え・再生においては、まず構造や耐震性などの『ハード』に目が向きがちですが、実はそれ以上に難しい問題になるのが、住民間の合意形成や管理組合の問題といった『ソフト』面です」。深井准教授はこの「ソフト」に着目し、建築に関わる法・制度や現実の建替えの実態を研究。建替えを阻む課題に解決策を見出そうとしている。
分譲マンション建替えにかかる
期間と条件を研究
老朽化マンションの建替えを促進するため、法・制度の整備も行われている。2002年には「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法と呼ぶ)が改正され、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(現在は「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」に改正、円滑化法と呼ぶ)が制定された。「それ以前は、マンションを建て替えるには、区分所有者全員の合意が必要でしたが、円滑化法の制定後は、区分所有者と議決権の4/5以上が賛成すれば、建替えを決議できるようになりました」
深井准教授は最近の研究で、2002年の法改正後の2005年から2018年3月までに竣工した建替え事例を調査。該当する事例から111物件を抽出して立地条件や物件条件を整理し、建替えに要した期間との関係から円滑化法が効果を挙げているかを探った。
その結果、全体としては円滑化法を適用した建替えと、従来の全住民の合意による任意建替えに大差はなかったものの、地価や容積率の低い場所ほど、円滑化法を適用する実態が見えてきた。「東京都心の突出して地価が高い地域は、円滑化法が適用された物件が少なく、それ以外の23区で、特に容積増加率の低い物件では円滑化法の適用が多く見られました。地価や容積率の高い物件は、建替え後の新規分譲の売却益を見込めるなど、住民の費用負担を抑えられるため、合意を得やすいと考えられます」と考察する。
また東京郊外の団地物件や規模の大きい物件、地方都市の物件でも、円滑化法の適用が多いことが確認された。「一方で面白い結果が見られたのが近畿圏です。近畿圏は東京郊外や地方都市に状況が近いにもかかわらず、円滑化法を適用した建替え事例は29.6%に留まり、任意建替えの方が圧倒的に多いことがわかりました。ここから地域特性や文化によっても違いがあることが示唆されました」
事業推進に時間がかかる物件ほど
円滑化法を用いている
さらに深井准教授は、25物件に絞ってヒアリング調査を実施し、建替えプロセスと円滑化法の関係をより詳細に調べた。
それによると、ヒアリングした事例の建替えに要した期間は平均13年、最短でも4年余り、最長では34年余りに及ぶ。また住民間の推進決議を経て、コンサルタントやディベロッパーが事業に関わってから再建マンションが竣工するまでにも2年半から10年半を要していることが判明した。「全体としては建替えプロセスにおける所要期間に、円滑化法と任意建替えに違いはありませんでしたが、事業推進までに時間を要した物件では、円滑化法を用いる傾向が見られました」と言う。
中にはコンサルタントの参加以前に10年以上も建替え議論を続けた物件もあったという。「意見の食い違う権利者グループが対立し、合意形成が難航したり、ある程度合意形成が進んでも、経済条件が変化して計画が頓挫するなど、事業期間が長引くのには、多様な事情があることが確認できました」。中には所有者と居住者が異なる区分もあり、関係者の合意形成は簡単ではない。円滑化法が制定されても、建替えを進めるには依然としてハードルがあることが明らかとなった。
2025年5月、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、2026年4月に施行されることが決まった。「今回の法改正によって、マンションの建替えや再生がどう進むのか、引き続き調査していくつもりです」と深井准教授。
一方で現在、他分野の研究者と連携し、区分所有者が建替えの可否を判断する助けとなるような指標の開発にも取り組んでいる。
これらの研究の蓄積が、老朽化マンションの問題解決に寄与していくことになる。
深井 祐紘
建築学部 建築学科
准教授/博士(工学)
建築計画研究室
専門分野
建築計画、都市計画
キーワード
郊外住宅地、マンション建替え、団地再生
研究室HP
深井研究室/明星大学建築計画研究室教員情報
明星大学教員情報 深井 祐紘東京生まれ、茨城県育ち。趣味は、旅行、ドライブ、写真撮影、食べ歩き、映画・ドラマ鑑賞など多数。映画やドラマのロケ地巡りも楽しみの一つ。目標は、研究成果を挙げることと、学生を一人前に育てること。いつか教え子の結婚式に招待されるのが夢。
2026年3月掲載
*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。