空間経済学で導く
都市生活の最適解はどこか
小林 健太郎
データサイエンス学環
経済学部 経済学科
教授/博士(経済学)
都市経済学研究室
都市化が進展する中で、人々の住み方、暮らし方も変化しており、それに伴うさまざまな課題が浮き彫りになっている。小林健太郎教授は、「空間経済学」の観点から、理論モデルや経済データを用いて、都市を巡るさまざまな課題について分析している。
都市の子育て世帯の居住選択を
理論モデルを用いて分析
多くの人々が暮らす都市は、便利で快適な機能を備えている一方で、人口集中や労働・生活環境の変化など、現代社会のさまざまな問題を内包している。小林健太郎教授は、都市経済学の理論を用いて、こうした問題を分析している。中でも関心を持っているのが、大都市の通勤や共働き家庭の居住選択など、働き方に関わる問題だ。
その成果の一つとして、都市における子育て世帯が、どのように居住地を選択しているのかを単一中心都市モデルを用いたシミュレーションで分析した研究がある。
「単一中心都市モデルとは、一つの中心地(CBD:Central Business District 中心業務地区)から、その周りを取り囲むように商業地や住宅地・農地などが配置される都市の経済地理学的なモデルです。こうした空間構造は、現実にも大都市などによく見られます」
分析にあたって、まず次のような仮定が設定される。都市には一つのCBDがあり、すべて住民は仕事のためにCBDに通勤し、同一の所得を得る。都市中心から離れるほど地代(住宅価格)は下がり、土地は広くなる。通勤費用は、都市からの距離と共に増加する。都市住民の効用(財・サービス)は、利用する土地の面積と合成財の消費によって決定される。
こうした前提の下、「夫婦フルタイムで共働き」「夫婦の一方がフルタイム、もう一方がパートタイムで働く」「夫婦の一方がフルタイム、もう一方が働かない」といった働き方の異なる子育て世帯が、どのような居住選択を取り得るか、シミュレーションを行った。
「例えばフルタイム共働きの世帯が、郊外に居住すると、通勤時間が長くなり、子育ては難しくなりますが、広い土地を好まなければ、職場に近いCBD付近に住むことを選べます。しかしフル&パートタイムの世帯は、CBD・郊外のいずれに住むにしても、財・サービスを落とさなければ難しいなど、いくつかのシミュレーション上の結論が見出されました」
これらの結果から、都市における子育て世帯の居住地は、「子育てしやすいから郊外に住む」といった単純なものではなく、所得や通勤距離、あるいは財・サービスなどさまざまな変数との兼ね合いで選択されることが見えてきた。「少子化が進む現代にあって、政府は、産休・育休制度の充実や子育て支援などの対策を講じていますが、今回のシミュレーション結果から、従来の子育て支援とは異なるアプローチの対策も考えていく必要があると考えられます」と指摘する。
被災した都市の機能は改善するか?
地価上昇から検証
「理論モデルを用いたシミュレーションも重要ですが、それを裏づけるために、実データを用いた実証分析も欠かせません」と小林教授。最近の研究では、災害などで被害を受けた地域の都市機能の改善可能性に注目。東日本大震災を対象に、震災後の復興過程で再開発が進められたことによって、土地生産性の上昇が見られるか、分析を行った。
研究では、土地の生産性を反映する指標として、住宅地の地価を採用。岩手県・宮城県・福島県の被災3県について、震災の前後で安定的な地価上昇が確認されるか、都道府県レベルのマクロ集計データを用いたDifference-in-Differences分析を実施した。
「その結果、対象の被災3県のいずれも、他の類似傾向を持つ地域と比べて、住宅地地価を押し上げる効果が確認されました。すなわちこれらの地域では、再開発などによる外部性の効果によって、土地生産性が上昇している可能性が示唆されました」
ヒートアイランド現象に及ぼす
人間活動の影響を探る
さらに現在、都市化の問題の一つとして、ヒートアイランド現象にも関心を持っている。
「今はまだ半分趣味みたいなものですが、都市化の進展に伴って、都市の気温が周囲よりも高くなるヒートアイランド現象についても考え始めています。この現象は年々顕著になっており、特に関東地方では、東京都市圏を中心に高温域が広がっています」
ヒートアイランド現象の発生には、さまざまな要因が指摘されているが、中でも小林教授は、都市形態の高密度化や人工排熱の増加といった、都市における人間活動の影響を重視している。
「都市では、建物が密集して風通しが悪くなり、熱の拡散や換気が滞りがちです。その上、空調機器や自動車などからの人工的な排熱は大幅に増加しています。一方で、ゲリラ豪雨といわれる局地的大雨の頻度も増しています。こうした都市における人間活動や気象の変化が、ヒートアイランド現象の発生にどのような影響を及ぼしているのか、経済データや気象データを用いて分析したいと考えています」
こうした多岐にわたる研究を通じて、今後私たちが都市をどのように発展させていくべきか、どのように暮らしていくべきかを考える上で、貴重な知見を提供している。
小林 健太郎
データサイエンス学環
経済学部 経済学科
教授/博士(経済学)
都市経済学研究室
専門分野
応用経済学、経済統計
キーワード
都市経済学、地域経済学、統計学
教員情報
明星大学教員情報 小林 健太郎福島県出身。高校時代は弓道部に所属していた。現在はスキーと漫画を読むことが趣味。休日は読書をしたり、公園を散歩したりして、ゆっくり過ごすことが多い。最近は、季節のお菓子を食べることと、おいしいカレーを作ることにハマっている。
2026年3月掲載
*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。