REPORT LiT レポート REPORT LiT レポート

何が正解かわからないからおもしろい! キノコの人工栽培 【教育学部 教育学科 篠山 浩文 教授①】

おせっかいな研究広報さん

研究広報誌『LiT』をつくっています

明星 SATOYAMA プロジェクト レポート【取材:研究広報さん】

2025年3月に明星大学で行われた明星SATOYAMAプロジェクトの「キノコ ワークショップ+フィールドワーク」。明星大学資料図書館に所蔵されているファーブルのキノコの原画を鑑賞し、学内散策でキノコを探し、銀粘土でキノコのアクセサリーを制作して、キノコ尽くしの一日を楽しみました。今回は講師のひとり、教育学部 篠山教授にお話を聞きます。

明星大学 副学長 / 教育学部 教育学科 篠山浩文 教授

農学博士。専門は、カビ、キノコ、雑草、塩、鉱山(金属)など。困難とされていたスギエダタケ(食用)の人工栽培に成功。木から化粧品を作るなど発明型の研究は多岐に渡る。篠山ゼミでは、キノコの人工栽培の他、先入観をもたずにチャレンジする学生たちの研究が繰り広げられている。

菌類であるキノコのライフサイクル

─篠山教授は野生のキノコの人工栽培をされているのですよね?ぜひキノコについて教えてください。

篠山教授:はい、今も学生と挑戦しています。まず、キノコは植物ではなく菌類の仲間です。

─ふむふむ。植物じゃないなら種子はつくらないですよね?土さえあればキノコは生えるのですか?

篠山教授:よい質問ですね。キノコは仲間を増やすために種子ではなく「胞子」をつくります。私たちがキノコとして見ている部分は、「子実体」という胞子をつくる生殖器官です。キノコは胞子が発芽し増殖した菌糸が再び子実体を形成するといったライフサイクルをもった生き物です。

─どのような環境で子実体をつくるのですか?

篠山教授:栄養、温度、湿度などの環境条件に応じて形成します。

キノコには植物の落葉や動物の遺体を腐らせることによってエネルギーを得るものや、マツタケのような菌根菌は生きた植物の根を介して物質のやり取りをするものもいます。どちらのキノコも生態系において重要な役割を担っています。

キノコの菌糸を増やす作業?野生キノコの人工栽培とは

─改めて整理すると、キノコは植物とは全く違う増え方、育ち方をしているのがわかりますね。キノコの人工栽培とは「キノコの菌糸を増やす作業」の繰り返しなのでしょうか。

篠山教授:そうです。自然界では菌糸は土の中や木の中にあって見えにくいですが、人工栽培ではキノコの胞子や菌糸体をおがくずや寒天培地に植えるなどして、菌糸を育てます。

─ふむふむ。お話を聞くまでキノコを栽培して鑑賞するという発想がなかったのですが、写真のようにフラスコの中で育つ人工栽培キノコが可愛くてびっくりしました。

篠山教授が観賞用に栽培したヒメカバイロタケモドキ。             
白い綿のようなものが、寒天培地に増殖した 菌糸。この菌糸からキノコが出現する。

篠山教授:アクアリウムのような、きのこリウム、キノコ盆栽を作っている人もいて、本も出ていますよ。

先入観をもたずに「まずはやってみよう」

─人工栽培のキノコはどれくらいの期間で生えてくるのでしょうか?

篠山教授:キノコの種類によって異なりますね。スギエダタケの人工栽培は成功までに10年位かかりました。学生のアイデアで改めて各地の杉林を歩き、生態を把握したことが転機になりましたね。

スギエダダケの人工栽培に
(世界で?)初めて成功したとされている。

─10年ですか。難しい挑戦をされていたのですね。

篠山教授:スギエダタケの栽培は難しいとされていました。杉おがくずを使うことで成功したのですが、杉産地の地域資源の活用という点でも、この研究がうまくいってよかったです。

─ 日本にはやむを得ず放置されている杉林がありますものね。

篠山教授:ただ本当に、野生キノコの栽培はわからないことだらけです。スギエダタケの人工栽培に10年かかりましたが、ヤグラタケの人工栽培を1週間で成功させた学生もいます。クロハツというキノコの傘の上に生えるので人工栽培は難しいと考えられていました。

─キノコの上に生えるキノコとは変わり者ですね。学生はクロハツから育てたのですか?

篠山教授:自然界では主にクロハツから特異的に発生するのですが、試験管の中の寒天培地で成功しました。水で湿らせた食パンの上でも子実体が発生しましたね。

─本当になにが正解かわからない世界なのですね。

篠山教授:そうなのです。学生の「やってみたい!」の熱意が「私の常識」を打ち砕いてくれました。先入観は学生の可能性をも摘み取ってしまう恐れがあるので気をつけたいですね。

─篠山教授は、学生の斬新なアイデアを楽しんでらっしゃる印象です。

篠山教授:一見、非常識なアイデアであっても、学生には思いついたのなら「まずはやってみよう」と言っています。予想通りにいかない時は新たな展開の前触れかもしれませんからね。あまり他の研究者の動向を気にしすぎず、学生にも自身の感性を大事にしながら探究活動を楽しんでほしいと思っています。

(続く)キノコの「おもしろさ」を味わう【教育学部 教育学科 篠山浩文教授】

デザイン学部 萩原修教授が企画したキノコの楽しい冊子があります!
ダウンロードしてみてくださいね!

『明星SATOYAMAきのこ界隈』
発行 明星SATOYAMAプロジェクト
企画 明星大学デザイン学部 萩原修

今回ご紹介したプロジェクトは、ぜひ動画でもご覧ください。

明星SATOYAMAプロジェクト 多摩の里山ときのこ 当日映像|明星大学

おせっかいな研究広報さん
研究広報誌『LiT』をつくっています

ひとこと

Instagramもみてください♪ (meisei_koho_lit)
おせっかいな研究広報さん

年月掲載

*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。