わくわく機械屋 #03
羽ばたく乗り物
宮本 岳史
理工学部 総合理工学科
教授 / 博士(工学)
鉄道車両の運動と機械力学の研究室
宮崎駿さん・スタジオジブリの描く乗り物は楽しい。空飛ぶ系の乗り物の豊かさには目を見張る。ただものではない豚さんが無人島に暮らし、仕事に、外食に、決闘にも赤い飛行艇(『紅の豚』)で出かける。個人ユースの空飛ぶ乗り物には大きな憧れを抱く。カリオストロの伯爵が利用するオートジャイロ(『ルパン三世カリオストロの城』)は現実にも存在するかもしれないので、お金持ちになれればぼくにも乗れる可能性はある。風を読む職人的な技を必要とするメーヴェ(『風の谷のナウシカ』)は幼少期から訓練が必要なようだ。フライングカヤック(『ハウルの動く城など』)など、羽ばたく乗り物は多くあるが、特にぼくはフラップター(『天空の城ラピュタ』)の飛行メカニズムに惹かれる。少々間抜けな荒くれ兄弟達が乱暴に操縦しているフラップターは、連結した後方の機体でも構わないので、一度、体験飛行させていただきたい。しかし、羽ばたく、つまり飛ぶために羽を上下に動かす機構はとても難しい。パズー氏がシータさんに見せた開発中の空飛ぶ乗り物は、はばたく鳩のおもちゃを、人が搭乗可能な大きさでの実現を狙ったものである。これはゴム動力で、鳥の胴体内でねじられたゴム紐が軸を回転させ、その軸に繋がるクランク機構で左右2枚の羽をパタパタと羽ばたかせることで空を飛ぶ。ただし、空賊の飛行船での旅先で当初の目的を達成したため、その後の開発状況は不明である。

現実には、人の作った空飛ぶ乗り物のほとんどは滑空する。一方で、羽ばたく乗り物の実用化例をぼくは知らない。ほとんどの鳥や虫は滑空もするが、羽ばたいて空を飛んでいることを考えると、羽ばたきは合理的な飛行システムであると考えられる。さらに、鳥や虫の持つ、軽量かつコンパクトな羽ばたき機構と動力、そのエネルギーの供給と蓄積システムが、優れて高度であり、人間の技術力では未達成である。
鳥は飛翔筋と呼ばれる、翼を下に打ち下ろす強力な大胸筋と、翼を上に上げる小胸筋を持つ*。これらの筋肉を模倣する技術はまだ存在しない。そもそも、筋肉の研究者は、筋肉は天然のリニアモーターである*と評するが、工学の分野からみると烏滸(おこ)がましい。軽量コンパクト、さらに柔軟さ、性能の面では現在の技術は動物の筋肉に叶わない。自然に学び、すばらしい生物のメカニズムを解き証し、参考にしながら技術開発を進めていきたい。
*参考文献『筋肉は本当にすごい-すべての動物に共通する驚きのメカニズム』杉晴夫 著/講談社
宮本 岳史
理工学部 総合理工学科
教授 / 博士(工学)
鉄道車両の運動と機械力学の研究室

専門分野
機械力学
キーワード
車両運動、鉄道車両、走行安全
研究室HP
鉄道車両の運動と機械力学の研究室教員情報
明星大学教員情報 宮本 岳史趣味はフィルム面とレンズを捻ってパンフォーカス写真を撮ること。被写体は葉っぱや木、林または寺や神社の柱の木目などが好きです。
2025年9月掲載
*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。