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情報学部

流体工学で液だれしない注ぎ口を

横山 真男

情報学部 情報学科
データサイエンス学環
教授/博士(工学)
音楽と楽器の研究室

流体工学・音響工学・情報技術を駆使し、日常生活にあるさまざまな現象の解明や問題解決に取り組んでいる横山 真男教授。中でも「液体」に着目した研究では、「液だれ」を防止する機構の開発、水滴が水面に落ちた時の「水音」のメカニズムの解明に取り組んだ。

メインイメージ

液だれ問題を解決する
画期的な形状を考案

ポットから湯を注いだ時や、醤油差しの醤油をかけた時、注ぎ口から液体がポタポタとこぼれ落ちて困った経験のある人は多いだろう。この「液だれ」の問題を解決する画期的な方法を考案したのが、横山真男教授だ。

横山教授は、流体工学と数値シミュレーションを用いて、日常にあるさまざまな現象を科学で解き明かしている。

通常容器から流れ出た流体は、慣性力と重力によって下へと流れ落ちていく。この時、容器口付近では、界面張力によって液体が容器の縁から壁面に引っ張られるように流れる。これが液だれの原因だ。

「既存の食器や調理器具などの注ぎ口にも、液だれを防ぐためのさまざまな工夫が凝らされています。例えばディスペンサーと呼ばれる先端の尖った吐出口は、食品容器だけでなく医療や化学、精密機器、土木の分野でも用いられています。しかしこれまでの液だれ防止吐出口は、いずれも万能ではなく、液体が変わるたびに、それに適した形状を開発しなくてはなりませんでした。そこで、どんな液体や容器でも効果が得られ、利便性やコストにおいても実用性のある方法がないか、探ることにしました」と横山教授。本研究で、容器口の周辺に細かな溝を掘り、表面に凹凸をつけるというこれまでにない方法を考え出した。

「例えば蓮の葉のように、微小な凹凸がある面は表面積が増え、撥水性が上がることが知られています。このウェンゼル・カッシーの法則の原理を応用し、容器口付近の撥水性を高めれば、流体が壁面に引き寄せられるのを妨げるのではないかと考えました」

注ぎ口に刻んだ溝により
液だれを防げることを実証

横山教授は実際に溝を掘った容器を作成し、液だれが防止できるか、検証実験を行った。

まず3Dプリンタで内径60mm、厚さ4mmのコップを作成。その容器口の縁から約1cmのところまで、幅0.4mm、深さ0.4mmの溝を刻む。溝はコップの外側、内側、両側、内側と上部、外側と上部に掘った5種類を用意。さらに容器縁の形状(丸縁・角縁・45度の傾斜縁)、容器の設置角度(0度・10度・30度)を変えた計54パターンについて、容器から水が流れ落ちる様子をハイスピードカメラで撮影し、液だれの有無を観察した。

その結果、どの縁形状・設置角度でも、外側と外側+上部に溝を刻んだコップで、液だれ防止効果が確認された(図1のA・C・E)。逆に内側に溝を掘った場合は、液だれを防ぐどころか、かえって液だれ発生を助長することが判明した(図1のB・D)。

図1:5種類の溝の掘り方とハイスピードカメラによる撮影の一例
(A)・(C)・(E)は液だれしない
(B)・(D)は液だれする

「液体が重力でコップから落下し、コップの壁面に沿うように流れ落ちる時、界面張力の影響によって流体を押し戻す力が働き、液体が壁面に付着しなくなると推測されます。ハイスピードカメラで撮影した映像でも、縁に残った最後の液滴が落下する際、水滴のちぎれた残りが容器の内側に引き戻される様子が見て取れました」

この注ぎ口の加工に関する特許を申請中。この機構を取り入れたコップが製品化され、社会実装されている。

3Dプリンタによる実験モデル(右はアクリルモデル)

「ポチャン」という水音と
流水映像を比較分析

生活にまつわる液体について、横山教授はもう一つ、ユニークな成果を挙げている。それが、水を使った時に耳にする水音に関する研究だ。生活環境でよく聞く流水音の中でも、水滴が水面に落ちた時に発生する「ポチャン」という音に注目し、そのメカニズムを明らかにした。

研究では、アクリルボックスに水を張り、水面より40cm高い位置からスポイトで水滴を1滴ずつ落とし、その様子をハイスピードカメラで撮影すると同時に、水滴が水面に衝突する音を録音。メトロノームから発生させた光と電子音を映像と衝突音に同期させ、映像のどのタイミングで水音が発せられているかを可視化することに成功した。

「水滴が落下して着水すると、水面にクラウン状(Crown-type splash)のスプラッシュを作った後、細い柱のようなスプラッシュ(Column-type splash)が発生します。水滴が落下して流水音が発生する瞬間のスプラッシュの様子を克明に観察したところ、驚いたことに流水音は、水滴が最初に水面に衝突した時に鳴ったのではないことがわかりました」

実際には、水面に水滴が衝突した直後にCrown-type splashができ、その後に発生したColumn-type splashのスプラッシュが下りてくる時に、球形の水滴が取り残されるように分離する(図2の③④)。この分離した水滴が水面に衝突した瞬間、水中に小さな気泡が二つ、連続して発生しているが見える(図2の⑤⑥)。録音された波形と映像を比較すると、この二つの気泡と音がほぼ同じタイミングで発生していることが判明した。「つまり『ポチャン』という音の『ポ』が、一つ目の気泡、『チャン』が二つ目の気泡の振動によって発生していることが明らかになりました」

水音が発生するメカニズムがわかれば、それを防ぐ方策も考えることができる、例えば水底に傾斜をつけ、Column-type splashを垂直ではなく、斜めに逸れた形に作れば、水の柱から分離する水滴が水面に衝突せず、ポチャンという音を防ぐことが可能になる。

日常にある現象を解析する研究が、生活の困りごとの解消や画期的な製品の開発につながっていく。

図2:Column-type splashと気泡(番号は図3のタイミングに対応)
図3:流体音発生の瞬間の音の波形

横山 真男

情報学部 情報学科
データサイエンス学環
教授/博士(工学)
音楽と楽器の研究室

横山 真男

専門分野

知覚情報処理、ヒューマンインタフェース、インタラクション、計算科学、認知科学、流体工学

キーワード

楽器音響、音楽情報、作曲、数値シミュレーション、流体工学

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教員情報

明星大学教員情報 横山 真男

情報学の修士を経て数値流体シミュレーションで工学博士を取得。作曲を久留智之氏に師事。現在、流体と音の研究の他、コンピュータやAIによる音楽作品、ストラディヴァリウスの音響研究などに従事している。楽曲作品は、国内外で出版され、国際作曲コンクールで入賞、国内のみならずヨーロッパ各国の演奏家によっても演奏されている。

2026年3月掲載

*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。