都市の暑さと電力の“悪循環”に挑む!日本ヒートアイランド学会 ベストポスター賞受賞【理工学研究科環境システム学専攻 博士前期課程 小林拓渡さん】
おせっかいな研究広報さん
在学生インタビュー【取材:研究広報さん】
2025年9月19日〜21日まで香川県高松市で開催された日本ヒートアイランド学会第20回全国大会において、理工学研究科環境システム学専攻の博士前期課程に在籍する小林拓渡さんが、ベストポスター賞を受賞しました!小林さんに受賞の感想やどんな研究をしているのか、詳しく聞いてみました。

小林 拓渡さん (明星大学/理工学研究科環境システム学専攻 博士前期課程)
「暑い→冷房→もっと暑い?」都市の悪循環を科学で解明
─まずは受賞おめでとうございます!
小林さん:ありがとうございます。受賞の知らせを受けた時は驚きましたが、学会発表に向けて十分な準備を重ねてきたことが評価してもらえてとても嬉しいです。
─ベストポスター賞を受賞したときの率直な感想を教えてください!
小林さん:今回の受賞は、研究の独自性や解析手法の精度が認められた結果であり、今後の研究活動において大きな励みとなります。
─今回の研究発表のタイトルは、「夏季東京圏の人工排熱がもたらす冷房電力需要へのフィードバック効果の定量化-観測とシミュレーションによる推計-」ですね。一体どんな研究なのでしょうか?
小林さん:私の研究は、夏季東京圏における気温上昇がもたらす冷房電力消費増の悪循環(気温上昇→冷房電力消費増→空調排熱増→更なる気温上昇と冷房電力消費増)の影響を気温と電力消費量の観測値から定量化し、観測値から得られた結果を都市気象モデルが再現できているか検証することを目的として行いました。これまでは、この悪循環があることは知られていましたが、完全には定量化されていませんでした。この研究の成果は、将来の都市気候の予測精度向上に役立つことができると考えています。
観測とシミュレーションで見えた“暑さの連鎖”
─「都市気候」って地面がアスファルトや建物に変わり、熱のたまり方や風の流れ、湿度が変化して生まれる都市特有の気候のことですね。確かに、東京都心に行くと道路がとても暑いですよね。今回の研究で注目して欲しい点を教えてください。
小林さん:2つあります。1つ目は、電力関連企業から提供された高解像度の電力データを使用していることです。これによって東京圏を1km四方に区切って詳細な解析を行うことができています。2つ目は、東京首都圏での冷房電力消費に対する悪循環のインパクトについて、観測と気象シミュレーションにもとづく推計が概ね一致する事が示されたことです。
─おお、観測とシミュレーションが一致するって、すごく信頼性が高そう!その意義ってどんなところにあるのでしょう?
小林さん:近年、気候変動に関するニュースなどでもよく引用されている気候変動に関する科学的な知見がまとめられた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書があります。このIPCCの第6次報告書では、今回用いた都市気候モデルと似たモデルによるシミュレーション結果が使用されていますが、上記の悪循環を現実的に考慮していません。今回、観測とシミュレーションが概ね一致したことによって、今後、さらに現実的な将来の温暖化予測ができるようになるというところに意義を感じています。
─学会での反応や印象に残ったコメントはありましたか?
小林さん:特に、気象モデルのパラメータ設定や昼夜の人工排熱による気温上昇の差異について、専門家から詳細な質問をいただき、20~30分にわたる議論を行いました。このディスカッションを通じて、解析手法の妥当性や改良の方向性について新たな示唆を得ることができ、修士研究への発展に有益な知見となりました。
次は冬の都市を分析!研究の広がり

─亀卦川研究室の環境や、共同研究で得た学びについて教えてください。
小林さん:亀卦川研究室はコンピューターのスペックが高く、全員がデュアルモニターで作業できるため、非常に快適な環境です。亀卦川先生は常に熱心に指導してくださり、研究に行き詰まった際には道筋を示してくれるので、研究のやりがいを強く感じます。また、国立環境研究所との共同研究では、打ち合わせを通じて研究理解を深めるとともに、プレゼンテーションスキルの向上にもつながりました。
─ふむふむ。写真撮影をさせていただいた時も、亀卦川先生がとても優しくて、学生との関係性もとても良いのだなと伝わってきました!小林さんの今後の研究の展望を教えてください。
小林さん:現在は夏季の気温上昇による冷房電力消費の増加を解析していますが、今後は冬季の気温上昇と暖房電力需要の減少について解析したいです。
─それは確かに興味深いですね。夏の“悪循環”とはまた違う視点ですね。気温上昇と暖房電力需要の減少…確かに“言われてみれば”ですね。
─最後に、同じ分野を目指す学生や環境問題に関心のある人へメッセージをお願いします!
小林さん:地球環境問題はとても幅広く、様々な分野があります。いろいろな視点から考えることが大切だと思います。環境問題に興味を持って学んでくれる人が増えたらうれしいです。
─都市の暑さと電力の悪循環って、聞くだけで「え、そんなこと起きてるの!?」と思いますよね。確かに、暑ければ暑いほど冷房は使ってしまうし…と自分の生活を振り返ると、一つ一つの行動がその悪循環に繋がっているんだなって思いました。でも、最近の夏はやっぱり暑いしなと。小林さんの研究は、その複雑な現象をしっかり数字でつかまえて、都市気候モデルの精度をグッと上げるもの。今後の展開にも期待が高まりますね!


ひとこと
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