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多摩地域まち歩き #03

急勾配な地形に対応した造成計画
日野市 百草団地

建築学部・深井准教授×もんでんゆうこさん

建築計画、都市計画を研究する深井准教授と線画家もんでんゆうこさんが建築の視点で学生とまちを歩くシリーズ。今回は世界的に有名な建築家 槇文彦氏が設計したコミュニティセンターのある百草団地内を歩き、地形に対応した特殊な設計や建築手法について教えてもらいました。

深井先生教えて百草団地で見られる特殊な設計

戦後の住宅不足や高度経済成長期の都市部への人工集中に対処するため、都市郊外には数多くの団地が作られています。当初は都心近郊や郊外でも大規模な平地を確保できるところへ建設されていました(近隣だと多摩平団地が1958年入居開始など)。1960年代に入ると、都市の拡大とともに大規模な平地の確保が難しくなってきたため、丘陵地にも団地が建設されるようになります。その一つが百草団地で、丘陵の地形を活かした形で開発されています。その傾斜を活用して立体的に歩車分離を行っている場所もあり、のちの多摩ニュータウンの開発にも影響が感じられます。

それまでの多くの団地では、皆さんが“団地“と聞いてイメージするであろう、豆腐のような真四角な住棟(団地の建物)が多く作られていましたが、百草団地では住棟の作られ方も地形を活かした形が多くみられます。階段を境に左右で高さを変えた住棟である「階段室ジョイント型」や斜面に沿って階段状に作られた「セットバック型」、それらの間を埋めるようにコンパクトな「ポイント型」、ピロティを活用した屋根付きの広場など特徴的な住棟を見ることができます。

ポイント型
階段室ジョイント型
今回のナビゲーター:百草団地を研究した大学院生(建築史・建築再生研究室)田中栄治さん

槇文彦氏が設計したコミュニティセンター

百草団地のショッピングセンターの建物は世界的な建築家である槇文彦氏の設計です。代官山ヒルサイドテラスなど歩いて楽しい店舗・住宅の設計者として有名ですが、1階の店舗とその向かいの湾曲した銀行と郵便局、1階から少し上がったところにあるスーパー(元図書館)とその下をくぐるような動線、2階にある集会所やクリニック、3階のポーチ付きの住宅や屋上広場などなど当時の公団住宅としては斬新なデザインになっています。

もんでんさんが聞くQuestion & Answer

団地の定義を教えてください。

団地とは、「一団の土地」の略で、一つの敷地に多くの建物を一体的に建てたものを指します。一般的には、団地といえば集合住宅の団地がイメージされますが、戸建て住宅の団地などもあります。

セットバック(ひな壇状の斜面接地住宅)について教えてください。

通常の住棟や階段室ジョイント型の住棟が建てられないような急斜面に対応する工夫として、斜面の傾斜に沿って住戸を少しずつずらし、ひな壇状に配置した建物です。それぞれの住戸のずれた部分はテラスとして活用されており、傾斜地ならではの特徴的な形態となっています。

団地内に小さな公園(PL)がたくさんありました。意図的につくられているのでしょうか。

2000戸を超える大規模団地なので、お互いの顔がわかるくらいの小規模なグループごとに分けられています。それぞれのグループごとに子どもが遊べる、近隣の方と集う場としてプレイロット(PL)が作られています。

PLがつくるセミパブリックスペース

アポロ広場の名前の由来を教えてください。

団地が作られたのと同じ年に月面着陸に成功したアポロ11号にちなんで名付けられています。広場の中心にはアポロ11号を模した遊具が置かれています。アポロ広場は団地の中心に作られたショッピングセンターに隣接するように作られているので、当時はお母さんが買い物をしている間に子どもが遊んでいたのかもしれません。

給水塔が建っているのはナゼですか。

現代のようにポンプの力がなかった時代には、団地全体に水を行き渡らせるために、いったん高いところに水をあげてから各住戸に水を送る仕組みでした。そのような団地には給水塔がシンボルタワーのように建っています。

百草団地で採用された造成計画ピンボケ法について教えてください。

丘陵の地形を真っ平に造成するのではなく、傾斜を残しつつ、建物の高さを元の地形に合わせて作ることでもともとの丘陵の姿をピントがボケたような形で残しながら作る手法です。

棟の外壁の色に「白」「青」がありました。何か意味分けがありますか?

白い住棟はUR(旧公団)の賃貸住宅で、青い住棟は旧公団の分譲住宅です。所有者が異なります。

移動販売車が来ていましたが空き店舗も目立ちました。団地内にある商店街の再開発の可能性についてうまくいっている事例があったら教えてください。

全国的に団地商店街の空き店舗などが課題となっており、各地で空き店舗を活用した取り組みがなされています。大学の近くでは多摩ニュータウンの松が谷団地などがあります。

もんでんさんからひとこと

丘陵地帯に建てられた百草団地は、雑木林に囲まれた自然豊かな場所です。緩やかなアップダウンあり、商店街あり、郵便局あり、駅からのアクセスもいい理想空間。何より1969年に建てられたレトロな雰囲気の建築物はかわいすぎる…暮らしてみたいッ!?

深井 祐紘

建築学部 建築学科
准教授 /博士(工学)
建築計画研究室

深井 祐紘

専門分野

建築計画、都市計画

キーワード

郊外住宅地、マンション建替え、団地再生

研究室HP

深井研究室/明星大学建築計画研究室

教員情報

明星大学教員情報 深井 祐紘

専門は建築計画・住宅地計画。研究室では学生とともに建築や都市の使われ方、人の居方などを中心に様々なものを見学している。研究は郊外住宅地や集合住宅などについての持続可能性について行っている。

もんでん ゆうこ

線画家

もんでん ゆうこ

これまで金融機関や多摩動物公園などのメインビジュアルを担当する。2019年より動物・平和をテーマに作品制作を始める。近年は壁画、ショーウィンドウペイントなども手掛け社会、暮らしを豊かにするアート制作を模索している。日野市内にアトリエを構える。

日野市在住の線画家 アーティスト もんでんゆうこ

2025年9月掲載

*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。