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建築学部

「祈りの空間」を設計する

村上 晶子

建築学部
教授 /博士(工学)
建築意匠・建築設計研究室

村上晶子教授は、東京の聖イグナチオ教会や鹿児島のザビエル記念聖堂など、30以上の聖堂・礼拝堂を手がけてきた。現代の典礼に則った教会建築とは何か。自らも手を動かして試行錯誤しながら、積み重ねてきた知見を明星大学の学生に教授している。

メインイメージ

現代に生きる教会建築を
日本につくる

現代の日本の教会建築は、祈りの空間にふさわしい要素・機能は備えながらも、モダンで洗練されたデザインのものが少なくない。村上 晶子教授は、そうした現代の教会建築において、多くの実績を持つ建築家の一人である。これまで35年以上のキャリアの中で手がけた聖堂・礼拝堂は実に30を超える。

「現代のカトリック教会は、『アジョルナメント』という言葉で表現されます。教会を現代に適応させる、いわば現代に合わせ『UP to DATE』していこうという意味です」と村上教授は説明する。その発端は、1962年から65年にかけて行われた「第2バチカン公会議」にあるという。「2000年にも及ぶキリスト教の歴史にあって、約400年ぶりに開かれたこの公会議で、典礼が刷新されました。これに伴って、世界中の教会建築も変化していきましたが、日本ではこの変更が浸透するのに時間がかかりました」。そこに風穴を開けてきた一人が、村上教授だった。

日本基督教団永福町町会(村上晶子アトリエ設計)
日本基督教団永福町町会(村上晶子アトリエ設計)

見える、聞こえる
祈りの空間を建築で実現

「新しい典礼に則った教会のあり方を考える時、重要なポイントが三つあります。それは、ミサが『よく見える』こと、聖書の御言葉が『よく聞こえる』こと、そして『祈りの空間としての静けさ』です。これを建築で実現するのが、建築家の役割です」と村上教授。

村上教授の実績の一つが、東京・四谷にある聖イグナチオ教会*1だ。コンペで6社の中から採択され、「現代の典礼に合致した教会に」というコンセプトの下、8年をかけて完成させた。とりわけ象徴的なのが、1000人以上を収容可能な主聖堂だ。堂内は楕円形で、祭壇を囲むように放射状に席が並び、壁には12使途を象徴した柱が据えられている。天井はステンレス板リフレクターがはめ込まれ、自然光が温かく降り注ぐ。「1000人もの人が、祭壇上の人をしっかり認識でき、その声を聞き取れるような形状や距離を緻密に導き出しました」と言う。旧来にない斬新なデザインは、当初反発も招いたというが、「現代を生きる」教会として、今も信仰の拠り所となっている。

また同時期にコンペで採択された仕事に、鹿児島ザビエル記念聖堂*2の設計がある。聖堂正面に船のマストのように構える鐘楼、後ろの会堂はザビエルの渡来船や方舟をイメージさせる船体のシルエットをかたちづくった。村上教授が力を注いだのが、聖なるものを感じさせる「光の空間」をつくることだった。「そのため内部の側壁に、色ガラスを重ねたパンチングメタルを張り巡らせました。正面祭壇側には敬虔な祈りを象徴する色であり、大航海時代の色でもある青の色ガラスを、後ろにはキリストの犠牲・贖罪を表す赤の色ガラスをはめ込んで、大胆な2色構成にしました」。外から入る光によって、早朝から夕暮れまで、また天候や季節ごとに刻々と空間の色彩が変化する。こうして厳かな祈りの空間を光によって表現してみせた。

*1・2 聖イグナチオ教会、鹿児島ザビエル記念聖堂は坂倉建築研究所在籍時の作品。

何を目指すのかを
言葉にすることが大切

教会建築においては、宗教に対する深い理解とともに、それを具現化する科学的な視点と技術が欠かせない。村上教授は、聖堂で音を鳴らした時の残響の長さや大きさを測定し、人の声は聞こえ、かつ美しい響きが残る最適な「響かせ方」を数値で算出。また礼拝中の人の視線を調べ、焦点を集める祭壇の高さや床の角度を導き出すなど、自らの実績を対象に実証研究を行っている。

また設計図に描いたデザインや構造を実現するために、自らも手を動かして試行錯誤する。「『そんなものは作れない』と施工会社に言われた時は、さまざまな素材を買ってきて、自分で模型を組み立ててみます。『こうやったら面白い光が入るな』『この建て方なら現実にもできそうだな』と試し、施工する人に提案することもあります」と明かす。

建物が完成するまでのプロセスは、一様ではない。「カトリック神戸中央教会の設計を依頼された時は、大変でした」と村上教授は振り返る。阪神淡路大震災から10年を経て、被災した3つの教会が統合し、再建されることになったものの、一部からの猛烈な拒絶反応があったという。「まず神戸に2週間近く泊まり込み、教会の活動に参加することから始めました。震災の傷跡が残る地域で炊き出しをしたり、夜回りをして家を失った方にカイロや毛布を配ったり、孤独を抱える高齢者の交流の機会として始まった朝食会を手伝ったりする中で、私に課せられた課題が見えてきました」。さらに村上教授は、反対する人々も含め3つの教会の意見をまとめるため、ワークショップ形式で設計を進める戦略を取った。こうしたプロセスを経て皆の合意を得た結果、「教会の活動を支えながら、安らぎに導かれる」聖堂空間が完成した。

「大切にしていることは、言葉と光です」と村上教授。「教会建築では、『見えないものを見えるようにする』ために『光』のコントロールが欠かせません。そして何より重要なのは、この教会を通じて『何を目指すのか』を言葉にし、共有すること。これは教会に留まらず、あらゆる建築にも当てはまります」

現在は、積み重ねてきた知見を明星大学の学生に教授することにも情熱を注ぐ。建築設計とともに人材育成を通して、後世に価値ある礎を残し続けている。

村上 晶子

建築学部
教授 /博士(工学)
建築意匠・建築設計研究室

横野 光

専門分野

建築設計

キーワード

建築設計、教会建築

研究室HP

村上晶子アトリエ

教員情報

明星大学教員情報 村上 晶子

2024年3月掲載

*内容・経歴は取材もしくは執筆時のものです。